製品情報:トランスのQ & A

Q:トランスにおける突入電流とはどういう状況でおきますか?
A:トランスの1次側に電源を投入するとそのトランスに流れる電流は直ちに定常の波形とならないで過渡状態を示すことになります。場合によっては定常1次電流の10倍~30倍位流れることがあります。これを突入電流(励磁突入電流)といいます。
一般にトランスは正弦波形の交流を電源としますが、突入電流の大きさは電源投入時、その正弦波形上の位置とトランスの鉄心における残留磁束によって左右されます。
大きな突入電流はトランスの入力側にあるブレーカーなどを誤作動させたり、場合によっては電源の破損やトランスの巻線自体に構造上の悪影響をもたらす事もあります。
[解説]

突入電流はトランス鉄心中に発生した磁束が過飽和に達したときに流れます。
最も大きな突入電流が流れるのはトランス鉄心中に残留磁束があり、下図①や③の位置(タイミング)で電源投入され、尚且つその残留磁束の方向と電源入力による磁束の変化方向が同一の場合です。
最も突入電流が小さいのは上記において残留磁束の方向と電源入力による磁束の変化方向が逆の場合や、トランス鉄心中に残留磁束が無く、下図②や④の位置(タイミング)で電源投入された場合などです。

Q:短絡電流とは何ですか?
A:通電中のトランスにおいて、何らかの原因で2次側(負荷側)線路が短絡した場合、負荷側のインピーダンスがほとんど0(零)となり異常な大電流が流れます。これが短絡電流です。
[解説]

短絡電流は、電源側インピーダンス、トランスのインピーダンスと負荷側線路インピーダンスで電圧を割った値になり、負荷の容量に関係無く線路容量に関係します。
したがいまして、保護装置の設定ではこの電流に対して十分な配慮が必要となります。
なお、トランス単体での短絡電流はトランスの一般試験データより算出できます。

 短絡電流(トランスの負荷側が短絡した時の1次側に流れる電流) =
1次電圧
インピーダンス電圧
1次定格電流

Q:トランスとそれを使用した回路の保護に使うブレーカーの設定について。
A:ブレーカーは、1次側及び2 次側に設置するのが望ましく、1次側についてはトランスの定格1次電流の約2~3倍程度、2次側についてはトランスの定格2次電流と同じ値以下で設定して下さい。
[解説]

突入電流はトランスの定格1次電流の数倍から数十倍流れ、電源投入後約0.1秒間程度が一番顕著に流れることが多い。定格1次電流と同じ値でブレーカーを設定しますと突入電流で誤作動することがありますので、ブレーカーの動作曲線を考慮して定格1次電流の約2~3倍程度の電流にてイナーシャルディレイ特性のブレーカーを設定されるのが一般的です。

トランスの1次側、2次側共にブレーカーを設置した場合その役割が異なります。

〔1次側設置〕
〔短絡保護〕
トランス本体での異常や負荷側短絡により発生する異常な大電流(短絡電流)を確実に遮断できること。突入電流で誤作動しないこと。

〔2次側設置〕
〔過負荷保護〕
トランスが過負荷になる状態を防ぐこと。
〔短絡保護〕
負荷側短絡により発生する異常な大電流(短絡電流)を確実に遮断できること。

Q:トランスの発熱量と温度上昇値の意味の違いについて教えてください。
A:トランスの発熱量は、使用中のトランスから発生する熱量のことです。
この発熱量は、例えば制御盤内でトランスを使用したとき盤内の温度をどれだけ上昇させるかという数値に直接関わります。トランスの温度上昇値とは、トランスに電流を流したときの鉄心やコイルの温度上昇値のことで、使用中のトランスの表面温度に直接関わります。トランスの温度上昇値は、トランスの性能や寿命を決める要因となりますし、熱の影響を受けやすい部品などをトランスと距離をとれない状態にて配置する場合も配慮しなければいけない要因となります。
[解説]

トランスの損失は出力電力(W0)と入力電力(W1)との差で求められ、そのほとんどが熱に変換されていると考えられます。よって、トランスの発熱量H(J)は次式にて求められます。

H(J)=(W1 - W0)×tとしてもとめられます。

*tは電流を流した時間 ※ 1J=0.24cal

トランスの絶縁物はその許容最高温度値により、絶縁階級として区別されています。

(JIS C6436 による)
A種 E種 B種 F種 H種
105℃ 120℃ 130℃ 155℃ 180℃

トランスの許容最高温度は、規定した周囲温度と温度上昇値の和となり、下記の温度を越えてはいけません。

A種 E種 B種 F種 H種
100℃ 115℃ 120℃ 140℃ 160℃
Q:モーターを使用するときのトランスの容量選定について教えてください。
A:使用するモーターに対するトランスの容量選定の際、考慮しなければいけない事項がいくつかあります。
  1. モーターの定格電流(運転電流)
  2. モーターの起動電流(始動電流)
  3. 始動時間(モーター始動時、起動電流が定格電流と同じになるまでの時間)
  4. モーターの力率によるトランスの変動率の変化
  5. 供給電圧変動範囲
  6. 使用周囲温度
  7. モーターの出力トルクに対して機械的負荷の大きさ
  8. モーター制御用としてインバーターやドライバーユニットを使用しているかどうか?
  9. 進相用コンデンサの有無

本来、上記事項に対しすべて考慮の上選定しなければいけませんが、困難な場合が多いため一般的には1. と2. により概算でトランス容量を割り出しています。計算式は次の通りです。

定格電流値による必要な容量[VA] = 定格電流[A] ×定格電圧[V]・・・①
起動電流値による必要な容量[VA] =(起動電流[A] ÷ n)×定格電圧[V]・・・②
 n:トランスが許容できる負荷率
トランス容量…①、②どちらかの大きい数値にて容量を決定(3相の場合は√3倍します)

トランスの出力電圧がモーターの定格電圧の90% 程度になる負荷率は、弊社製品の場合は最小でn = 3 になります。n の値は製品ごとに異なります。

(例)インバーターなどを使用せず、トランス出力より直接、5.5kW の3相モーター(定格電圧200V、定格電流21A、起動電流105A)を駆動させた場合に適したトランスの容量算出
定格電流値による必要な容量・・・・・・21A × 200V ×√3 ≒ 7.3kVA・・・①
起動電流値による必要な容量・・・・・・(105A ÷ 3)× 200V×√3 ≒ 12kVA・・・②
① < ②より、トランス容量12kVA

[解説]

1. と2. より概算でトランス容量を割り出す場合、モーターの起動電流にトランスの出力電流を合わせますと、必要以上に大きなトランスを選定することになってしまいます。

そこで、定格時の容量を確保し起動時の容量に対する設定をどれだけしぼれるかの検討をします。

トランスの定格2次電流よりモーターの起動電流が大きい場合、トランスは瞬時的に過負荷状態となります。出力電圧はタップ電圧より低くなりますので、モーターが要求する電圧を確保出来るようトランス容量を設定しなければいけません。

上記の例にて計算したトランスの場合、瞬時の過負荷においてトランスの出力電圧がモーターの定格電圧の90% 以上になるようにn = 3として容量を選定しました。

Q:60Hz 用のトランスは50Hz 地域で使用できますか。
A:一般の商用電源用トランスは、50Hz用、60Hz用、50/60Hz共用の3タイプがあります。50Hz用は60Hz地域で使用できますが、60Hz用は、50Hz地域で使用できないことがありますので確認が必要です。
[解説]

トランスを設計する上で必要な要素の1つに使用鉄心の最大磁束密度に対する設計値の項目があります。この設計に使用する計算式を利用して考えることが出来ます。

計算式 Bm = E / 4.44 × f × N × S

60Hz用を50Hzで使用することは、計算式の分母に含まれるfが60Hz → 50Hzになりますので、算出されるBmの数値は1.2倍増えます。鉄心の種類により最大磁束密度が決まっていますので、もし50Hz で使用するとして、電源変動を加味したBm 値が、そのトランスの最大磁束密度を超える場合は、鉄心飽和による過電流が1次側に発生し、トランスが故障に至る場合があります。

Q:トランスの容量表示はなぜW(ワット)では無く、VA(ブイエー)なのですか?
A: 「VA」とは皮相電力の単位で、交流機器に供給する電圧と電流の積で見かけ上の電力のことをいい、一般にトランスなどの交流電源機器の容量をあらわすのに用います。「W」とは有効電力の単位で、負荷となる機器の力率を加味した数値です。有効電力は交流機器で有効に使用された電力のことをいいます。
[解説]

交流の回路において負荷の電気回路が抵抗だけの場合、電圧と電流の間に位相差が無く、電流は全部有効に使われます。この場合皮相電力(VA)= 有効電力(W)となります。

この場合皮相電力(VA)=有効電力(W)となります。回路にリアクタンスが含まれた場合、電圧と電流の間に位相差ができ、有効に使われない電流が存在することになります。この時の電力を無効電力(Var)といいます。

位相差を角度θとしベクトル図で表しますと次の図の関係が成り立ちます。

Q:テスターのACレンジで、トランスの2次側端子(非接地)と、収納ケースのアース端子間を測定したところ、電圧が測定された。このトランスは使用できないのでは?
A:絶縁抵抗試験及び耐電圧試験を各部位間にて実施され、結果が仕様に基づく内容に合致していれば正常に使用できます。
[解説]

トランスの場合、1次側端子と2次側端子間及び、2次側端子(非接地)と収納ケースのアース端子間など、絶縁処理を施した電極間には多少なりとも静電容量が存在します。この静電容量により交流電流が流れ電圧が誘起されますので、正常なトランスでも計測器にある数値が表示されます。

このような交流電流は漏れ電流と呼ばれ、トランスに限らず、交流電源に接続される一般電気機器でも同様な現象が現れます。

Q:トランスを2台並列に接続して使用可能ですか?
A: 定格及び特性が同じトランスであれば、2台組み合わせて、並列使用することが可能です。
[補足説明]

並列運転を行おうとするトランス同士が次の条件を満たしている場合、並列運転を行うことが可能となります。

  • 一次定格電圧、二次定格電圧の大きさがそれぞれ等しく、極性も一致しているとき
  • 巻数比(一次巻数と二次巻数)が等しいとき
  • 百分率抵抗降下、百分率リアクタンス降下がそれぞれ等しいとき

尚、三相トランスの場合はこれらの条件とは別に、同一極性・同一結線の場合のみ可能となります。

留意点:2台のトランスへの配線は、入出力それぞれ同一線径を使用し、配線長に極端な差を生じないよう配線してください。

Q:トランスの定格入力電圧に対して110% の電源電圧を印加して使用できますか。
A: この質問の意味には次の2 通りが考えられます。
  1. トランスの定格入力電圧と電源の定格電圧は一致しているが、変動範囲が+10%まで予測される場合。
  2. トランスの定格入力電圧に対して電源の定格電圧が、110%である場合

①の場合
電圧変動は一時的なものであると解釈されますので、全く問題無く使用できます。弊社では一時的な電圧変動が+10% まで許容できるよう、設計基準を定めております。JIS規格におきましても、一時的な電圧変動条件を想定した試験項目が定められております。

②の場合
使用できません。
過負荷、及び鉄損(鉄心で消費される損失)が増加する状態が継続するために、寿命が著しく短縮されます。又、トランスの定格電圧の110% からさらに電圧が変動・上昇することが予測されますので、その場合は鉄心飽和により、短時間でトランスが故障に至る場合があります。